久しぶりの能楽資料です。
今回の資料は、非常に変わった品です。

厚紙に包まれています。

カバーの内側には、能楽紙芝居『摂待』(25枚)が入っています。


日本教育紙芝居協会の作品で、昭和17年、日本教育画劇株式会社発行、定価3円です。

一般に、紙芝居は、幼児から青少年までを対象としています。
しかし、今回の品は、とてもその範囲にはとどまっていません。
何より不思議なのは、『摂待』が、『高砂』や『羽衣』のようにポピュラーな能ではないことです。
『摂待』は、上演されることが極めれまれな大曲です。
<あらすじ>
兄、頼朝から逃れ、陸奥を行く義経一行が立ち寄った里では、山伏をもてなす「摂待」が行われていました。その主催者は、かつて義経(ツレ)のために命を落とした忠臣、佐藤継信、忠信兄弟の実家だったのです。弁慶(ワキ)は素性を隠そうとしますが、継信の母(シテ)と幼い息子、鶴若丸(子方)は、一行の中に義経がいることを見破ります。老母は、息子の最期の様子を義経や弁慶に尋ねます。弁慶は継信の勇敢な死を語り、義経も継信が故郷の母を案じていたとの遺言を伝えます。悲しみの中、母は一行に酒を勧めます。やがて夜が明け、同行したいと言い出した鶴若丸を慰留しながら、一行は佐藤家を後にするのでした。
<登場人物>
佐藤継信、忠信兄弟の老母(シテ)、佐藤継信の遺児・鶴若丸(子方)、源義経、義経の家臣(ツレ、11人)、武蔵坊弁慶(ワキ)、佐藤兄弟の母の下人(アイ)
この能には、シテの舞いは無く、総勢15名にもおよぶ役者が舞台に座し、謡いと言葉だけでストーリーが展開されていきます。
劇的な展開や派手な所作とは無縁の、玄人好みの能です。
したがって、戦時下、どのような意図で、この紙芝居が作成されたのか全く不明です。
謎が多い今回の品は、能楽資料として興味深いともいえるでしょう。
そこで、何回かに分けて、25枚の紙芝居全部を紹介(絵とセリフを対で)していきます。


所々に謡曲が入っています。紙芝居の演じ手が謡えない場合は、その部分だけ削って実演しても良い、との但し書きが付いています。



















