今回も、言葉あそびや番付けではなく、暮らしの知恵です。
16.2㎝x22.8㎝。江戸後期。
先回と同様、家の中に貼られていたらしく、ボロボロですが、文字の部分は幸いにもほとんど無傷です。
年中貯食物秘傳 前編
干蕨の法
若きわらびをむして灰をまぶし、日に
ほし扨灰を水にてあらひおとし、又よく日ニ
ほしかため、たくわへおき、用る時ハ湯に
ひたし和らげて料理につかふべし
【扨灰】アクの出た灰
若き蕨を蒸して灰をまぶし、陽に干し、扨灰を水にて洗ひ落とし、又よく陽に干しかため、蓄へおき、用いる時は湯に浸し、和らげて料理に使ふべし。
漬笋干笋の製法
竹の子の皮をとり、根のかたき所を切リ
すて二ッニわり、節の間へ塩一ぱいつめ
おけの中へいくえもかさね、おしふたをし
上におもしをかけ、たくわへ置、用る時ニ
よく/\塩だししてつかふべし
❍又方に竹の子の皮をとり、にえゆニ
ひたし、日にほしかためたくわへ用ゆる時
白水ニつけ、やわらげてつかふもよし
竹の子の皮を取り、根の堅き所を切りすて、二つに割り、節の間へ塩いっぱい詰め、桶の中へ幾重にも重ね、押蓋をして、上に重しをかけ、蓄え置く。用いる時によく塩出しして使ふべし。❍又方に竹の子の皮を取り、煮え湯に浸し、陽に干しかため蓄へ、用ゆる時、白水につけ、和らげて使ふもよし。
茄子芥子漬(なすびからしづけ)の製法
秋なすびの花おちを塩づけにして
つかりしころ取出し、水気をふきんにて
よくぬぐひとり、扨からしをかたくねり
ぬのにつゝミにえゆの中へ入一トふかしして
とり上ケよく/\さまししようゆにてよき
ほどにねり、からし一升にかうじ一枚ほど
入ㇾよくかきまぜ壷の中へからしを下ならし其
上へ右のなすびをならべ又其上へからしを一トならしゝ
ふたをしてつぼの口を目バりしてたくわへ
三十日バかり立て取出し用ゆべし
秋茄子の花落ちを塩漬けにして、漬かりし頃取り出し、水気を布巾にてよくぬぐひとり、又、辛子を固く練り、布に包み煮え湯の中に入れ、一ふかしして取り上げ、よくよく冷まし、醤油にて良き程に練り、辛子一升に麹一枚ほど入れ、よくかきまぜ、壷の中へ辛子を一ならしし、蓋をして壷の口を目張りして蓄へ、三十日ばかりたちて取り出し用ゆべし。
注:「茄子の花落」:今は、実る前に花が落ちてしまうことを花落ちと言いますが、江戸時代の「花落茄子」は、おそらく若い小茄子をさすのだと思います。また、漬物に砂糖を使い始めたのは江戸後期からで、今回の茄子芥子漬けは、「初夢漬け」とよばれていました。
漬松茸の法
松たけのいしづきを切りすてぢくの皮を
とり水一斗にしほ三升ほど入にかへらし
松たけを入一ふかしにてなべをぬきよく
さまししほ水ともにおけニ入おしふた
をし、おもしをおきてたくわへ用ゆる
ときよくしほだししてつかふべし
松茸の石づきを切り捨て、じくの皮を取り、水一斗に塩参照ほど入れ、煮かへらし、松茸を入れ、ひとふかし煮て、鍋を抜き、よく冷まし、塩水とともに桶に入れ、押蓋をし、重しを置きて蓄え、用ゆる時よく塩出しして使ふべし。
柚餅子(ゆびし)の製法
寒中に柚のへたの方を薄くきり
はなし、ミをとりだし、ふたも中も筋を
とり、よくあらひ白ミそに白砂糖を
まぜ、ごまもち米の粉などくわへ
よく/\すり、右の中へ八ぶん目ほど
つめてむしよきころ取出し日ニ五六日
ほし柚をならべ板をおきおもしをかけ
大ていかわきたるときわらづとニ入
風のふく所につりおくべし
寒中に柚のへたの方を薄く切り離し、実を取りだし、蓋も中も筋を取り、よく洗ひ、白味噌に白砂糖を混ぜ、胡麻もち米の粉など加え、よくよくすり、右の中へ八分目ほど詰めて蒸し、良き頃に取り出し、陽に五六日ほど干し、柚を並べ、板を置き、重しをかけ、大抵乾きたる時、藁苞に入れ、風の吹く所に吊り置くべし。
万年酢の製法
六月土用の中によき酢と酒とを
等分にまぜつぼニ入かたく口を封じ
炎天にほしさらし、七日斗リ立て(たって)用べし
用ゆるときくミとりし酢ほどさけと
水とを合しつぼへ入又口を封じおく
べしかくのごとくすれバいつまでも
酢のつきることなしよつて万年酢と
いへり甚だべんりなるもの也
六月土用の中に良き酢と酒とを等分に混ぜ、壷に入れ、固く口を封じ、炎天に干しさらし、七日ばかりたって用ふべし。用ゆる時、汲み取りし酢ほど酒と水とを合し壷に入れ、又口を封じておくべし。かくのごとくすれば、いつまでも酢の尽きることなし。よって万年酢と言へり。甚だ便利なるものなり。